シェイクスピアの妻が主役、映画ハムネットが描く名作誕生の裏側にある愛と悲劇
世界で最も有名な劇作家ウィリアム・シェイクスピア。彼の代表作であるハムレットがいかにして生まれたのか、その裏側に隠された家族の絆を描いた映画ハムネットが、今月10日より公開されています。本作は第98回アカデミー賞において、ジェシー・バックリーが主演女優賞を獲得したほか、作品賞を含む計8部門にノミネートされるなど、世界中で高い評価を得ている話題作です。
本作の最大の特徴は、物語の主役をシェイクスピア本人ではなく、その妻であるアグネスに据えた点にあります。これまでに何度も語り継がれてきたシェイクスピアの人生を、新たな角度から切り取ることで、古典的な題材でありながら非常に新鮮な印象を与える作品に仕上がっています。
物語の核心となるのは、最愛の息子をペストで失った夫婦の姿です。400年前、日本でいえば江戸時代初期という遥か昔の時代を舞台にしながらも、そこで描かれるのは現代の私たちにも通じる深い喪失感。絶望の淵に立たされた人間が、どのようにして悲しみと向き合い、生きていくのか。その葛藤が、後に世界を震撼させる芸術へと昇華されていく過程がリアルに描き出されています。
有村昆さんは、なぜ人は物語を書き、演じ、感情を言葉にするのかという真理がこの映画には詰まっていると分析します。悲しみは決して消えることはありませんが、形を変えることはできる。言い表せないほどの痛みが、普遍的な芸術へと姿を変える瞬間に、観客は心を揺さぶられるはずです。
時を超えて愛され続けるシェイクスピアの戯曲には、人間の喜怒哀楽が色褪せることなく刻まれています。どんなに時代が変わっても、人の心の本質は変わらない。そんな力強いメッセージを感じさせる本作。悲哀の中に希望を見出す、圧倒的な人間ドラマをぜひ劇場で体感してください。