映画監督・榊英雄被告に懲役8年——「演技指導」と偽り女性を追い詰めた性加害、裁判所が有罪認定
東京地裁(宮田祥次裁判長)は6日、準強姦罪に問われた映画監督の榊英雄被告(55)に懲役8年(求刑懲役10年)の実刑判決を言い渡した。
榊被告をめぐる裁判は、被告が終始「冤罪」と訴え続けた点が際立っていた。法廷で被告は「監督の立場を利用したことは全くない」「男女の関係だった」と繰り返したが、裁判所はその主張を退けた。
「演技指導」という名の罠
起訴状によると、榊被告は2015年3月、東京・港区のマンション一室で、出演が内定していた当時20代の女優に対し、衣装合わせを終えた直後に「演技の練習」を口実として性的暴行を加えた。2016年には別の当時20代の女性に対しても、「売れるためには覚悟を見せろ」などと言い、複数回にわたってわいせつな行為を強要したとされる。
検察側は昨年12月の論告で、「映画監督と駆け出しの俳優という圧倒的な立場の差を利用し、自らの性欲のはけ口にした卑劣で悪質な犯行」と指摘。被害女性らが役を失う恐怖から抵抗できない状態に置かれていたことを詳細に述べ、懲役10年を求刑していた。
対する弁護側は「女性側から自発的に連絡してきており、合意があった」などとして無罪を主張。結審の日、被告は「私は無罪であり、冤罪だ。一生かけて闘い続ける」と最後まで訴えた。しかし今日の判決はその主張を認めなかった。
告発から逮捕まで——2年越しの闘い
事態が表面化したのは2022年3月のことだ。週刊文春がオンラインで、榊被告の作品に出演したりワークショップに参加した女優4人が性的行為を強要されたと訴えていると報じた。当初、榊被告は「事実でない部分も含まれている」とのコメントを出しただけで、被害者への直接の謝罪はなかった。
この報道をきっかけに被害者の声は次々と表に出てきた。映画『蜜月』の主演を務めた佐津川愛美をはじめ、元女優の石川優実、女優の睡蓮みどりらが被害を証言・告発。同作の公開は中止となり、榊被告の所属事務所も契約を解消した。妻であったシンガーソングライターの和も「榊を一度も許したことはない。私も被害者だ」と公式に表明し、その後離婚が成立した。
被害の告発から逮捕まで2年近くかかったことに、当事者たちは複雑な思いを抱えていた。捜査に協力した睡蓮みどりは当時、「被害を話すのは本当につらかった。でも、担当してくださった女性警察官が一緒に涙ぐんでくれて、何とか前を向けた」と振り返っている。
2024年2月に警視庁が榊被告を逮捕した後も、再逮捕は計4回に及んだ。押収されたSDカードには複数の女性が映った動画が残されており、捜査関係者は「表に出ていない被害者がほかにもいる可能性がある」と指摘していた。
映画業界の「密室」に残された課題
この一連の事件は、映画制作の現場におけるキャスティング権限と性加害の問題を社会に突きつけた。「出演させてあげる」という言葉が、いかに若い俳優を脆弱な立場に追いやるか。業界内では以前から「業界の常識として黙認されてきた部分がある」という声もあり、自浄作用の乏しさが問われてきた。
2023年12月には、日本外国特派員協会で「映画業界の性加害・性暴力をなくす会」のメンバーが会見を開き、「榊のケースで表に出ているのは7〜8件だが、情報としてはその5倍以上。公的な第三者機関がなければ実効性ある対応はできない」と訴えた。
今日の判決は一つの区切りではあるが、業界の構造的な問題への答えはまだ出ていない。